文学圏のあゆみ


上部にありますメニュー項目の下段のメニューからでもページを見ることができます。


創刊者たちの短歌(文学圏600号からの転載)

 

木村眞康(文学圏の創刊者)

 

冷え冷えと冬空あがり少年の夢こわれたる屋敷跡あり

ウィンドに一個五円のふだを立て僅かばかりの餅並べいる

踏みつけて童がゆきしくさむらに蕗の薹あり色鮮しく

日暮には日暮の匂い満ちており青き穂波の動く麦畑

野の果てに暮色なじまずひとときを燃えたと見せて夕茜空

  

西部治夫

 

年をとる度に私の体は小さくなるが気持ちは太々しくなる

詩には原作も 脚色者もいない ひとりぼっちを今日も奏でる

正月が地平線から近づいてくるのがよく見える 私の地平線

地を這っている蟻が大きく見え 私が小さく見える日もある

遠いところは夢で 近いところは杖でたぐり寄せる私の旅

 

 

岸原広明

 

寂しさが匂うほどなるひとり居のあけくれ今日も清しくぞあれ

茫々とさびしき過去は過去として珠玉のごとき涙を愛す

あたたかき思い出一つ遥かなりああ春の陽に言葉よ蘇かえれ

さわやかに吹く風すでに夏のもの想い若やぎ見つむるいのち

春あさきひと夜をいのち相いだくおろそかならぬいとしさ秘めて